1 リノベーションの問題点を探る
家の中の見えない所を検証・確認した結果、以下のような現象が有りました。
構造躯体の欠陥
鉄筋露出
壁下地の欠陥
軽量鉄骨(LGS)下地に錆が発生
断熱の欠陥
断熱材が薄く断熱材表面にカビが発生
換気の問題
吸気口のフィルター能力不足による
室内への不純物質侵入
配管劣化の問題
配管内の錆の進行による水質汚染
音の問題
床のコンクリート厚が薄いので音が伝わりやすい。
遮音の技術がなかったため音が伝わりやすい。
2 リノベーションとは
リフォームは内装の模様替えや設備機器の交換、刷新などといった小規模な工事を指し、機能の復旧がメインです。
リノベーションはスケルトン改修などの大規模な改造を指し、「住まいの機能の高度化を図り価値を向上させる事」で定義されています。
しかし、事業者の都合で使い方がまちまちです。
マスコミでもリノベーションという言葉をよく使っていますが、内装デザインの斬新さや設備の新しさばかりをもてはやしている感じがします。
これらの要素も欠かせないものですが、住まいにはそこに住む人の「器」として、安全で快適で健康に住まう機能・性能が満たされている事が大前提です。
多くのリノベーション会社は、ここに目をつぶり、もしくは大前提であることも知らずに、顧客から請負、もしくはリノベーション済み物件として販売しています。
マスコミの記事を読むと「自分好みにリノベーションし、かつ新築より安く入手できる」と書いています。記事自体は嘘ではありませんが、「器」としての大前提には一切触れていません。
私たちプロフェッショナルは、高い見識を持ち顧客に「器」として大事なことをきちんと伝える義務があります。
その上で、顧客へ販売、請負をすべきです。顧客は大金を投じるのに、事業者が無知で済むはずは有りません。
リノベーションとは、建物の機能と性能を新築時以上にし、その家に住まう人が「安全」「快適」「健康」に、且つ「楽しく」住まう為の「器」をつくるものです。
3 良い住まいとは
前章で記述した「器」としての機能と性能の殆どは「品質確保促進法」(以下、品確法と記します)に明記され、それぞれの性能項目に対し等級表示されています。この法律以外に法令化されていませんが、転倒時における床の安全性が重要です。品確法では10項目の性能基準があります。
品確法の性能項目は、耐震等級など建物躯体を規定したものと、空気環境性能など生活のしやすさを規定したものに分類されます。
ここではリノベーションに於いて生活のしやすさ(快適、安心、安全)を実現する為にどんな性能項目があるのかを分類します。大きく分類すると4項目、性能表示項目にすると7項目あります。
- 健康な生活⇒ ①空気環境性能、②温熱環境性能
- 快適な生活⇒ ③遮音性能
- 安全な生活⇒ ④防犯性能、⑤高齢者等への配慮性能
- 安心な設備⇒ ⑥維持管理・⑦更新への配慮性能、劣化の軽減性能
これらの法律などで規定した事項以外に設備系インフラの利便性も重要です。どんどん進化していく通信環境に対し追随していけるようにインフラ設計をしておくこともリノベーションには重要です。 ここまでが「器」として網羅しておかなければならない基本事項です。
もう一方では、その「器」に住む人は、ライフスタイルが変化していきます。おそらく15~20年のサイクルで変わっていくと思われます。この変化に対し容易に対応していけることが「器」には重要です。つまり、プランに合わせて住むのではなく、住まい手の変化にプランが追随する「可変」仕掛けが必要です。 これらの性能基準等を分かったうえでデザイン性が高い、自分の嗜好に合った住まいをつくれば、どんなに素晴らしい良い住まいが出来るでしょう。
4 住まいが変化する
2章で記述した「可変」について、多くのリノベーション会社は対応していません。その理由はこんなところにあります。 大工さんは、一部屋ごとにつくりたがります。それは、その方が仕事をしやすいから、作業のけじめが一部屋ずつつくからです。
一部屋ずつつくるという事は、間仕切壁が部屋ごとに床下から天井裏まであり、そこに床と、天井面がぶつかる構成だという事です(これを壁勝ち床天井負けと業界用語で言います)。一見、どうでも良い事に感じるかもしれませんが、数年後に間仕切りを変えたいとすると、間仕切りを動かしたいだけなのに床も天井も大きく壊さなければ改修が出来ない道連れ工事という大工事になります。
将来、住まいが変化を求められたときに容易に可変できる配慮をしておくことも、リノベーションを設計する者の責任です。
可変といっても、住まう家族のライフスタイルの変化予測はある程度はたちます。したがって変化を予測した場所に、電気、通信設備などのインフラや、補強を予め準備をしておくことです。